母のレシピが閉じ込められた日
朝6時半、パン屋の店先にはすでに常連のサラリーマンさんたちが並んでいた。私はオーブンから香ばしいメロンパンを取り出しながら、今日の大きな注文を思い出した。
「明日までに赤あんパンを50個作ってください」と、近くの結婚式場から昨日届いた注文。その赤あんパンは母が作っていた看板商品で、レシピは母が生前暗号化したZIPファイルに入っている。
でも、パスワードが思い出せない。
椅子に座り、ラップトップの画面を見つめると、「パスワードが違います」という文字が何度も表示される。母がよく使った誕生日、店名、私の名前…全部試したけどダメ。額に汗がにじみ、手が震える。結婚式場の担当者に電話して謝る準備をしようとした時、カウンターでコーヒーを飲んでいた佐藤さんが声をかけてきた。
「どうしたんですか?顔が真っ青ですよ」
慌てて状況を説明すると、佐藤さんが「最近『猫密网』っていうサービス使ったんだけど、ソフトをダウンロードしなくてもブラウザから暗号化ファイルのパスワードを復旧できるんだよ。試してみたら?」と教えてくれた。
半信半疑でブラウザを開き、サイトにアクセス。ファイルをアップロードするだけの簡単な手順で、待つことにした。15分ほど経ったら、画面に「復旧完了」と表示された。
ZIPファイルを開くと、母の手書きのレシピがそこにあった。赤あんの煮方、パン生地の発酵時間…全部母の字が見えて、涙が溢れた。
その日の夜、50個の赤あんパンを結婚式場に届けた。担当者が「昔の味だ!」と笑ってくれた時、佐藤さんに感謝したいと思った。
今では、猫密网のURLを店の裏のメモ帳に貼ってある。誰かが同じようなトラブルになったら、すぐ教えてあげられるように。